"Fly Higher"
16分音符を刻みながらループする美しくも鋭いエレクトリックピアノの高速フレーズは、スマートフォンの画面に映し出されては消えていく、情報の洪水を思わせる。
そして、ディストーションを効かせたギターリフ、高音で切り込んでくるエッジーなギター、ロー感をブーストした4つ打ちのバスドラム、タフなラップ、抜け感のある歌は、気怠く重くのしかかる日常とそこで足掻き、澄んだ空を見上げて高く飛ぼうとする姿と重なった──。
新曲「Fly Higher」。
SPYAIRのメインコンポーザーUZのソロ名義による音楽活動が始動、その狼煙とも言える真新しい楽曲が6月25日にドロップされる。
今回の再始動の予兆は、彼が40歳になってから約半月後の2025年1月1日にあった。この日、Xに新曲「STAGE OF RHYTHMS」の[MIX TAPE #1]のMVが投稿されたのである。
後に会ったUZは[MIX TAPE #1]とつけられた「STAGE OF RHYTHMS」について、「ミックスも途中ですし、未完成なんです」と言っていた。
つまり元旦のアクションは、40歳の年にソロを本気でやるという先触れであり、宣言だったわけである。
そもそも、中学でギターを手にしてから作り続けていた音楽を、自らの名義で鳴らすと心を定めて向き合い直し、音源としてリリースしたのは2023年。この年に5曲を発表した。同時に2023年はSPYAIRに大きな転機が訪れていた。ヴォーカリストとしてYOSUKEを迎えたのである。そして、翌2024年は真新しいステップを駆け上がるバンドの再構築に注力し、並行してヴォーカル&ラップユニットS.T.U.Wの活動を行なってきた。
そして、2025年。SPYAIRは今もなおバンドとしての成長を続けており、いい意味で完成していない中、40歳という節目を迎えたUZはバンドとソロ、両方に膨大な熱を注ぎ始めている。
“Are you just ready to feel the fire?”
「Fly Higher」に組み込まれたこの“準備はできているか?”という自身への問いの答えはこの新曲が、ソロで発表してきた6曲の中で最も鋭利だという事実に表れていると言えよう。
ラップセクションとメロディで構成した「Fly Higher」でUZは、無表情でスマートフォンから情報や娯楽を手軽に得続ける日々、口先だけの存在証明が溢れている日常をリアルに描き、“No pain, no gain “、痛みなくして得るものなしと言う。“It’s time to fly higher”、もっと高く飛ぶ時だと焚きつける。
「ソロでは自分の音楽で、僕自身を奮い立たせたい。自分の音楽から勇気をもらいたい」
ソロ活動をスタートさせようとしていたタイミングでUZが言った言葉だ。
この「Fly Higher」も、彼は共感や共鳴を望んで作ったわけではない。
ただし、心の底から湧いてきたものを、己が認めることができるまでこだわり、研ぎ澄ました不純物ゼロのサウンド、メロディ、言葉だからこそ、この日常で燻っている人、高く飛ぼうと力を蓄えている人……気持ちや状況が「Fly Higher」にシンクロした人には深く刺さり、莫大なエネルギーを生む。
そして、UZというアーティストは1曲1曲ととことん向き合うディープさと同時に、広い視野を持ち、先の先まで見ている。
「Fly Higher」は再始動の狼煙、先陣である。
次の弾丸はもう込められている。
2025年、節目を迎えた彼の活動、発する音楽が楽しみだ。
文・大西智之